3モーター内蔵カメラの祖 T90
投稿者:MARK12さん

T90と言ってもロシア製の新鋭主力戦車T90のことではありません。
キヤノンのカメラT90のことです。そう言えば、キヤノンのTシリーズは、
最初の頃TANKとか言っていましたね。T80という同名の戦車もあります(笑)。

キヤノンT90は、キヤノン本命のAFカメラとなるEOS650が発売(87年
3月)される約1年前の86年2月に発売されたスタイルや機構の面からもエポック
メーキングな一眼レフカメラでした。FDマウントのMFカメラでしたが、そのフォ
ルムや機構は、その後のEOSシリーズに大きな影響を与えたものと考えられます。

T90は3個のモーターを内蔵したマルチモーターシステムの草分け的カメラと
言ってもいいでしょう。現在のAFカメラはコアレスとコアードの両タイプの
モーターを適材適所に使い分けているようですし、2モーター式のカメラも多い
ようですが、T90は3個のコアレスモーターを使用していました。
3個のモーターの内、1個はフィルム給送機構用で巻き上げスプールの中に入って
います。もう1個はグリップ内部に入っているチャージ機構用でシャッター、AE
(自動絞り)、ミラー駆動系のチャージを行います。
そして最後の1個が巻き戻し機構用です。各機構の近傍に独立してそれぞれの負荷に
最適のモーターを配置することにより、メカがよりシンプルになってギヤの段数も
少なくなり効率がアップしています。
これらの効率化と作動シーケンスの最適化により、単3乾電池4本ながら最高秒間
4.5コマの連写速度を実現しました。

T90には、モーターの正逆転を利用した自動変速機構を組み込んであり、電池が
新しい時にはHモード(Hiギア接続)に、電池電圧が低下したり、フィルム負荷が
重くなってコマ速度が低下した場合には自動的にモーターを逆転させてLモード
(Lowギア接続)に自動変速させています。
又、従来のカメラでは制動(ブレーキ)にストッパーやダンパーを用いていましたが、
T90ではモーターの発電ブレーキのみで制動を行い、メカ部材を極力廃止しています。
このようにT90は、従来のメカ機構を極力減らし、大幅な電気化を達成しました。
このことは、AE−1以降に実現させた主用機構のユニット化を更に進めると共に、
組立・調整の簡易化などコスト低減にも貢献したものと思われます。

T90は、最高1/4000秒、シンクロ同調速度1/250秒の比較的グレードの
高い縦走行シャッターを採用しています。しかしフラグシップ機ではありませんでした
から、多くのカメラと同様に耐久性としての設計基準は、シャッター回数で5万回相当
だったはずです。一般的にフラグシップ機での耐久性は10万回保証というのが、
ひとつの設計基準になっていたようです。これはその後出現した最高級機EOS−1
では実現されずに、EOS−1Nで達成されたようです。

次にT90を使用材料から見た場合、外装カバーだけでなく、シャーシやギヤ類も含め
てかなり徹底してエンジニアリングプラスチックが使用されています。正にT90は、
エンプラの固まりと言えるものでした。
外装カバーはABS樹脂製で、30ミクロンの銅メッキを施して黒色ラッカー塗装を
されています。内部機構部品にはポリカーボネイト、チャージ機構のギヤはガラス繊維
入りポリアセタール、巻き戻し機構のギアにはナイロン系樹脂を使用とされています。
シャーシは、ミラーボックス周りを中心にアルミダイキャスト製の枠をエンプラ部品に
インサートした形の一体成形で、これらの手法は後のEOS−1などに引き継がれて
いったようです。

尚、T90には、メモリーバックアップ用として、ボディ内部にフッ化黒鉛系の
BR1225又は二酸化マンガン系のCR1220のコイン型リチウム電池が内蔵
されています。
T90の中には、このバックアップ電池の寿命が切れているものがありますので、
この場合は、本体の単3電池を抜くと、設定データが消えて初期状態に戻ってしまう
ようです。

  戻る