カメラと電磁干渉
投稿者:MARK12さん

近年のカメラやレンズは、CPUやメモリ等の電子デバイスを多数搭載し、外装や
シャーシにプラスチックを多用するものも多いですね。
CPUのデータバスやアドレスバスなどの直接的な信号系やCPU、I/O、メモリ
などを動かす補助的なICなどが電磁干渉を受けた場合に動作停止やリセットあるいは
暴走などの不具合を起こすことも考えられます。
カメラで多用されるフレキシブル基板のパターンなどの形や収納位置などの影響も無視
出来ないでしょう。
カメラでも、電磁干渉の影響としか思えないような現象が、特殊な環境下では発生して
います。
 
代表的な報告例が空母の艦上などでの撮影でしょうか。
雑誌などでも艦船や航空機を撮影しているプロカメラマンが電磁干渉問題に絡めて、
空母の甲板上でEOS−1(N)が不調になったが、F4ではそのようなことが無く、
使用出来るというようなことを書いていました。

また、ネット上のある掲示板では、以下のような報告例がありました。
(1) 空母の艦橋(アイランド)で、着艦してくる戦闘機をEOS−1Nで撮影して
いたが、飛行機が最終接近(ファイナルアプローチ)に入った頃に撮影中にカメラが
勝手に巻き戻し動作に入り、撮影不能となった。
電源スイッチの入れ直し、バッテリーの入れ替えを行っても、アイランドを降りるまで
復帰しなかった。又、用意していたサブカメラのEOS−5も動作しなかった。
(2)この時に近くで撮影していたキヤノンカメラユーザーの3名も同様な現象の不具
合に見舞われていた。しかし、金属ボディのニコンカメラユーザーに影響はなかったそうだ。
(3)他の現象として、ビデオ撮影していた友人は、画面に横縞が入り、音声にはチーと
いう雑音がのって、映像が白黒になり、挙げ句の果てにビデオテープがイジェクトされて
しまった。
(4)カメラをアルミホイルで包んで撮影している人もいた。
この時のシチュエーションは、自動着艦システムの影響ではないか。艦橋のそれらしき
パラボラアンテナのすぐ側に居たということで、状況からこの時は自動着艦システムの
レーダーの影響ではないかということで、やりとりをしました。

米空母ではACLS(Automatic Carrier Landing System)という全天候空母着艦システムを
使用していますが、このシステムに組み込まれている航空機誘導・管制レーダーに
AN/SPN−42というKaバンド(30GHz帯)のかなり高い周波数のレーダー
(パルス波のピーク出力20KW)のパラボラアンテナが空母アイランドの両脇に
各1台あります。このレーダーを使用して得た精密位置情報を基にUHF帯のデータ
リンクやボイス通信で航空機を誘導しています。
自動着艦のファイナルアプローチにはSPN−42の動作周波数が10GHzから
33GHzに切り替わるようなので、その時からの影響のようだと回答した経緯が
あります。

一般に金属外装のカメラがプラ外装のカメラより、電磁シールド効果が高そうなのは、
感覚的にも解るのですが、プラ外装のニコンF4が電磁干渉に強いのは意外?なこと
かもしれません。電磁干渉に強い回路構成、シールド効果に優れたプラ外装やシールド
材などを使っているのかもしれませんが、加えてアルミ合金ダイキャストボディである
ことが有効に働いているのではないかと思います(接地のためのマスとしても)。

電磁波の遮蔽材として、金属といえども数KHz以下のような低い周波数では、電磁波の
進入深さ以上の厚みが必要ですが、シールドメッキをしたプラスチックではメッキ厚が
重要とも言えます。金属外装(筐体)に電磁波が入射した場合、大別して反射するものと
入射するものがありますが、金属内部に侵入した電位の大きいパルス性のノイズは、電位
を減少させて電流に変換されて流れます。そのエネルギーは分散して吸収されます(熱に
変わる)。一部は透過波となって出るものもあります。
この観点からも厚みに余裕のある金属外装が遮蔽目的では有利と云えるでしょう。

カメラなどのプラ外装(筐体)の電磁シールド方法としては、
1.導電性塗装(ニッケル系、銅系などの塗料)
2.無電解銅・ニッケルメッキ
3.導電性プラスチック(銅、アルミ、ステンレスなどの金属繊維を混入)
4.その他(アルミ真空蒸着等)
などの対策が施されているのが一般的と云えるでしょう。

しかし、十分な電磁シールドを施したプラスチック外装を、あるいは金属外装を使用
すれば、それでいいという訳ではありません。
問題はカメラ外装が、継ぎ目や開口(穴)がない単純な箱ではないということです。
実際には、穴や接合面の合わせ目など開口が多いということです。
実際のシールド効果は、この部分で決定的になりかねません。もちろんカメラ内部の回路
などの耐干渉能力の大小で、影響の程度は違ってきます。

筐体の開口(穴)や継ぎ目などの隙間は、導波管の開口やスロットアンテナの役目を
しますから、その長さの1/2の波長以下の高い周波数の電磁波は通してしまいます。
例えば、シールド効果を60dB程度求めるとすると、シールドしたい最小波長(最高
周波数)の1/100以下の開口、隙間とする必要があるとされています。
例えば、1GHzまでの電磁波を遮断したければ、3mm以下の開口にする必要があり
ます。30GHzなら0.1mm以下の開口でしょうか。
接合部の合わせ目の表面は、導電性である必要がありますね。隙間は導電性パッキンや
シール材で埋めることが望ましいでしょう。

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