チタン外装カメラが高価な理由
投稿者:MARK12さん

最近は、昔に比べてチタン材の価格も下がっていますし、チタン板の新しいプレス
成形方法も開発され、加工コストも下がっているようですが、
それでもチタン製カバーを使用したカメラは、まだまだ高価です。
一般のカメラより付加価値が大きかったにしろ、なぜ高価だったのでしょう。
それは一口で言うと、チタンが黄銅(真鍮)に比べて材料費で数倍、また加工費で
数倍であったということだと思います。
カメラ外装の場合には使用量がそれ程多くないので、材料費としては大したことは
ないと思いますが、加工費の方がバカにならなかったようです。

黄銅(真鍮)やチタンなどのカメラ外装カバーは、プレス加工で作られていますが、
チタンはアルミやバナジウムを添加した一般的なチタン合金(Ti-6Al-4V:アルミニ
ウム6%、バナジウム4%で残りがチタン)ではなく、今のところ純チタンのみが
使用されています。これはチタン合金の方が純チタンより更にプレス加工が難しい
ためと考えられます。
チタンやチタン合金は、切削、プレス成形、鍛造などの加工を行う時に劣化(加工
硬化や酸化)が起きやすく、加工時は、真空や不活性ガスの雰囲気中で行うか、
被加工品周りの空気を遮断することが必要と云われています。

一般的なα+β型チタン合金(Ti-6Al-4V)の加工ですが、変形抵抗が鉄鋼よりも
大きく、熱伝導率はステンレス鋼より悪く、高温度での活性が非常に大であるため
酸化などの汚染劣化が起きやすく、治工具との焼き付けも発生しやすいので、
専門的で高度な技術が必要とされています。
(注.αやβは、熱処理の温度に伴う金属結晶状態を示すもので、アルファ相、
 ベータ相、ガンマ相などと呼ばれます。α+βは、両相の中間的性質)
ニコンではプレス成形向きのβ型チタン合金で試作したらしい例はありますが、
今のところカメラでのチタン合金の実用例は無いと思います。

カメラ外装の様な複雑形状のプレス加工は、純チタン板のプレス加工でも真鍮板の
プレスに比べて、多くの行程が必要で、この行程の多さやプレス金型の寿命の短さ
などがコストに大きく影響します。この行程数を減らすことや金型寿命を延ばす
工夫が進展して以前よりは低コストになっているのではないでしょうか。
F2チタンの時代は、中間焼き鈍しも含めて10行程位は要していたのではないか
と推定しています。F3チタンもほぼ同様だったのではないでしょうか。

F2チタンは、市販品としては世界初のチタンカバーのカメラだったと思いますが、
70年代後半にはチタン成形技術の目途が立ったからでしょうね。
F2チタンではファインダーカバー、左右上カバー、前カバー(エプロン)、
底カバー、裏蓋と外装カバー全てが純チタン製と徹底したものになりました。
しかし、さすがに前カバーがへこむようなことは滅多にないのか、次のF3/Tでは
前カバーは黄銅製に戻されましたね。
更に裏蓋もそれ程必要性が少ないと思ったのかNewFM2/Tでは上下カバーだけに
なってしまいました。
ニコン以外のチタンカバーカメラでは、上カバーと底カバーあるいは上カバーのみ
というのがほとんどですね。

カメラのチタン外装を量産できるのは日本だけのようです。
ライカもM6チタンでは、真鍮カバーにチタンコーティングするしかなかったようです。
コンパクト機ではチタン外装のものも、その後出していますが、日本で作っていると
いうことでしょうね。
ニコンでは仙台ニコンなどでチタン製品を製造しているようですが、
他社ではほとんどが外注のようです。カメラ等に関しては日本でも1〜2社しかない
のではないでしょうか。
新潟県燕市にある東陽理化学研究所という成形メーカーは、チタン成形技術で知られて
います。チタンは金型に焼き付きやすいのですが、金型のパンチとダイのダイの方が
材料に接しない液圧成形プレスという方法で工程数などを減らし、より低コストで
量産しているようです。
コンタックスG2の上カバーなどで月間6千個位生産する能力があるようです。
この液圧成形プレスで成形されたカバーは、角(エッジ)の部分のアールが大きい
(丸い)という傾向があるようです。

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